CrestMuse Symposium 2008
研究内容詳細 〈片寄グループ(関西学院大学理工学部情報科学科)〉



「聞き方の違いを脳機能計測で確認する」
松井 淑恵、風井 浩志、片寄 晴弘

音楽家は、同じ音楽を聞いていても「コンクールの演奏審査をしているとき」と「音楽の構成をわかろうとしているとき」のように、"聞き方"を変化させることができる。本研究では、そのような"聞き方"の違いが脳の活動にどのように反映されているかを、fNIRS(機能的近赤外線分光法)を用いて計測した。計測結果から、「音楽の構成をわかろうとしているとき」に活動する部位は左半球の前頭前野の外側下部であることがわかった。同時に、前頭前野の背側部で活動の低下がみられた。耳から入ってくる音楽の違いだけでなく、音楽の"聞き方"という主観的な状態の違いによっても脳の活動が異なることが確認された。


「名演を用いて演奏をデザインする」
橋田 光代、片寄 晴弘 体験デモ

演奏生成システムを使って演奏表情作りを行うユーザにとって,操作が手軽であり,洗練された演奏事例(ライブラリ)を使え,さらに必要に応じてユーザの“細部へのこだわり”を反映させられることが,完成品の出来栄えにもかかわる重要な要素である.ここでは,洗練された名演奏の事例を参照しつつ,自分なりの演奏表現を,音楽構造も意識して作り込みできるシステムMixtractを展示する.


「歌声を混ぜるインタフェース」
森勢 将雅、片寄 晴弘、河原 英紀 体験デモ

音声分析変換合成法STRAIGHTを用いた歌唱モーフィングを,実時間で動作するインタフェースとして実装した.歌唱のモーフィングでは,歌声を「声質」「歌い回し」へと分離し,2歌手の各特徴を混ぜることができる.感情のモーフィングでは,1名の歌手が「喜」「怒」「哀」について歌った歌唱をモーフィングすることにより,3感情を自由な比率で混合できる.これらのモーフィング率を再生中でもリアルタイムで変更することができるインタフェースを紹介する.シンポジウム会場では,素人,プロ歌手,合成システムで作られた合成歌唱を混ぜることで,どのような歌声が生み出されるか体験して頂きたい.


「CrestMuseXML Toolkitを用いた音楽情報処理システム」
北原 鉄朗 、片寄 晴弘

これまで音楽情報処理の共通データ形式やフレームワークがなかったため,個々の音楽情報処理システムの実装に共通性がなく,組み合わせて再利用することは困難だった.本稿では,この現状を打破するために現在開発を進めている共通データ形式「CrestMuseXML」と汎用実装フレームワーク「CrestMuseXML Toolkit」を紹介する.


「音楽のムードを可視化する」
藤澤 隆史、谷 光彬、長田 典子、片寄 晴弘 体験デモ

本研究では,楽曲がもつムードの構成要素として個々の和音種がもつ独特の響き(和音性)に注目し,楽曲ムードを色彩で表現する可視化インタフェースの構築を行なった.和音性に関する定量的評価モデルを利用することで入力和音のムードを3つの成分へと分解し,それらを明度,彩度,色相へとそれぞれマッピングすることで出力される色彩を決定する.その結果,個々の和音がもつ微妙なニュアンスの違いを色彩の違いで表現することが可能となった.


「Directable Performance Interface: in respect for Max Mathews」
橋本 祐輔、馬場 隆、橋田 光代、片寄 晴弘 体験デモ

「Conducting Program (指揮プログラム)を用いることで,演奏者は指運びを気にすることなく,演奏表現で最も重要なフレージング,テンポ表現・音量表現に集中できる.」これは,Max Mathewsが Radio Baton の説明をする際に語った言葉である.ここでは,演奏表情データベース(MIDIレベル)対応の指揮システム iFP.MJと,音響信号を対象とした指揮システム AiiM の展示を行う.タイプの異なる二つの指揮システムで能動的音楽鑑賞の世界を体験して頂きたい.


「一流ピアニストによる打鍵動作の上肢運動制御」
古屋 晋一、片寄 晴弘、木下 博

一流ピアニストは、長時間演奏しても、どうして手や腕が疲れないのか?本研究は、その背景に隠された身体運動スキルについて紹介する。コンクール入賞歴のあるピアニスト7名と同数のピアノ初心者が、さまざまな音量でピアノの鍵盤を打鍵する際の、肩から指先までの運動を高速度カメラによって計測した。計測した身体運動情報にロボティクスの計算手法を用いることによって、打鍵動作中に肩、肘、手首、指関節に生じる「筋力」と、慣性力や遠心力、重力といった「筋力以外の力」を算出した。その結果、ピアニストは、筋力以外の力を効果的に利用することによって、打鍵時の筋肉の仕事量を軽減する熟練運動技能を獲得していることが明らかとなった。本研究は、「科学による音楽家への貢献」を目指して実施されたものであり、本研究結果は、ピアノ演奏や指導の現場に、表現支援や故障発症の予防の点から有意義な情報を提供する。


「ピアノ演奏動作のリアルタイムCG 表現」
釘本 望美、山本 和樹、武田 晴登、片寄 晴弘、長田 典子、巳波 弘佳

演奏動作は音楽演奏における重要なファクターの1つである.とりわけピアノ演奏動作の生成やCG表現技術の研究においては,これまでピアノ練習支援システムや演奏支援GUIなど機械的な指の動きを扱ったものが多く,動きのリアリティに着目した研究は少ない.本研究では,モーションキャプチャを用いてピアノ演奏時の手指の動きを獲得し,オフラインレンダリングによってリアルなピアノCGアニメーションを制作するとともに,リアルタイムレンダリングにより音楽インタフェースiFPと同期するGUIを構築する.